千葉大学予防医学センターの河口謙二郎特任助教(研究当時、現・東京女子医科大学助教)らの研究チームは7月30日、健康・社会関係・健康行動に関する指標が生活満足度に与える影響を金銭換算した研究成果を発表した。全国20〜79歳の成人を対象としたインターネット調査データをもとに、生活満足度が1点高い状態を1年間維持する価値、いわゆる「1 WELLBY」を算出したところ、約151万円と推定された。研究成果は6月13日、学術誌「Value in Health」にオンライン公開された。
従来、医療費の削減効果などは金銭換算しやすい一方、孤独感や地域とのつながりといったウェルビーイングに関する価値は数値化が難しいとされてきた。こうした背景から、研究チームは、所得と生活満足度の関係を基準に他の要因を金銭換算する手法「WVA(Well-being Valuation Approach)」を用いたという。
調査は、楽天インサイトのオンラインパネル登録者から抽出したもので、最終的な分析対象は1万4736人(回答完了率86.7%)だった。回答者の負担を考慮し、対象者を2グループに分割してそれぞれ異なる指標群に回答させている。平均年齢は51.1歳、男性が61.3%、大学卒業以上が53.3%、既婚者が60.2%だった。
19指標で円換算、社会的つながりが満足度を押し上げる要因に
同調査は2025年2〜3月に実施され、約1万5000人が回答した。研究チームは、メンタルヘルス、社会関係、健康行動、ヘルスリテラシー、女性の健康の5領域19指標について、各指標の得点1点分が生活満足度とどの程度関連するかを所得額に換算した。分析にあたっては、世帯人数を考慮した等価世帯所得を基準として用い、測定しにくい要因の影響を抑えるため両親の学歴を操作変数とした。

指標別に見ると、孤独感(UCLA-3)は1点あたり最大97万円、地域への信頼や愛着を示す認知的ソーシャル・キャピタルは1点あたり34万〜64万円と、社会的なつながりに関する指標で相対的に大きな換算値が示された。一方、食行動の制御に関する指標などでは、換算値が小さいか有意な関連が確認できなかった項目もあった。
19指標のうち、プラス方向では、地域への信頼や助け合いを示す認知的ソーシャル・キャピタルが1点あたり約34.3万円ともっとも高く、次いで主観的な心理的健康度(WHO-5)、食事の多様性の順だった。一方、マイナス方向では、孤独感(UCLA-3)が1点あたり約51.3万円の厚生損失に相当し、19指標中もっとも大きな値を示した。次いで不眠症状、うつ症状の順に損失が大きく、心理的・社会的な要因が身体的な健康行動よりも大きな換算値を持つ傾向が見られた。
同調査では、こうした個別指標を踏まえた全体の推定として、1 WELLBYの価値は約151万円と推定された。分析条件を変えた複数のパターンでは、推定値は約151万〜204万円の範囲だった。研究チームは、この金銭換算値を事業の効果測定と組み合わせることで社会的価値を金額として示せるとし、政策評価や、投じた費用に対する社会的価値の割合を示す「SROI(社会的投資収益率)」分析への応用が期待されるとしている。
研究チームは、幸福感を尺度に用いた分析、平均所得を基準にした分析、回答者本人の学歴を追加した分析など複数の感度分析を実施し、いずれも主要な結果と方向性が一致したとしている。
また、今回推定した日本の1 WELLBYの価値(約151万円)について、英国政府が公式に用いているベンチマーク値(1 WELLBYあたり約1万3000ポンド、2019年価格・約1万7000米ドル)よりやや低い水準にあると指摘している。所得水準の違いに加え、ウェルビーイングに関する報告の文化的傾向や、分析に用いた操作変数の違いが影響している可能性があるとしている。
なお、これらの換算値は各指標と生活満足度の関連を示すものであり、指標が変化した場合の因果効果を意味するものではないと研究チームは注記している。今後は自治体や民間企業による費用便益分析やSROI分析の参照値としての活用が見込まれる。
参照:国立大学法人千葉大学 2026年7月30日
健康・社会関係・健康行動の価値を「円」で見える化~全国調査で、生活満足度1点・1年間の価値は約151万円と推定~