日立、設計ナレッジシステムをHMAXで提供開始
2026年9月14日 10時20分更新

株式会社日立製作所は2026年9月10日に、熟練技術者のノウハウを形式知化し、設計業務の効率化と品質向上を支援する「設計ナレッジシステム」を開発し、次世代AIソリューション群「HMAX Industry」の新たなラインアップとして提供を開始したと発表した。少子高齢化に伴う深刻な熟練技術者の不足や技能伝承の遅れが製造現場の大きな課題となる中、設計業務では経験則や技術文書、過去の不具合情報、さらには3次元CADデータといった多種多様な情報を総合的に判断することが求められている。しかし、そうした高度な知見は分散・属人化しやすく、設計ルールの確認や適用に膨大な工数を要するだけでなく、確認漏れによる手戻りや製品品質のばらつきを引き起こす要因となっていた。こうした課題を打破する手段として産業界におけるAI技術への期待は急速に高まっており、世界の製造業向けAI市場規模は2025年時点で76億ドルに達し、2026年の98.5億ドルから2034年には1288.1億ドルへと拡大し、年平均成長率37.9%の高成長を遂げると試算されている。日立は以前から設計者に知恵やひらめきをもたらす空間コンセプト「DIW(Design Insight Workspace)」を推進し、2026年6月には品質保証業務向けの品質ナレッジシステムをリリースしていたが、今回その中核を担うソリューションとしてこのシステムを投入した。

このシステムは、日立が長年培ってきた制御・運用技術(OT)の知見と独自の形状認識技術、そして先進のAIエージェントを有機的に融合させた点が最大の特徴となっている。AIエージェントが熟練技術者のノウハウや過去の不具合情報を記した技術文書を読み込み、プロンプトを入力することなくテキストや図表から設計ルールを自動で抽出して一元管理する。蓄積されたナレッジはチャットボットを介して自然言語で瞬時に検索できるため、若手技術者でも容易に先人の知見へアクセスできる。さらに、日立独自の「形状認識関数データベース」には穴の取得関数や曲げの取得関数、距離測定関数などが組み込まれており、生成AIと連携して設計ルールから形状チェック用のプログラムを自動生成する。これにより、製造業の標準フォーマットであるSTEP形式で作成された3次元形状CADデータと設計ルールを照合し、違反箇所を画面上にわかりやすく可視化できる。目視による検図作業の工数を劇的に減らして不具合の見落としを防ぎ、手戻りの撲滅と設計品質の平準化を同時に実現する仕組みだ。
実環境での有効性を検証するため、日立グループでは自らが最初のユーザーとなる「カスタマーゼロ」の取り組みとして、株式会社日立ハイテクにおいて板金・製缶図面の検図作業を対象とした実証テストを事前に実施した。過去3年分の検図記録における不備案件にプロトタイプを適用したところ、曲げ加工や打ち抜き・切断加工が困難な作業箇所や寸法不備などを自動で100%抽出することに成功し、後工程への不具合流出を大幅に抑止する高い効果を確認した。日立は今後、設計段階のみならず製造、保守、品質保証といったモノづくりの全工程を包括するサービス網を構築する計画だ。設計者の操作履歴や判断ログを活用してナレッジを自律的に拡張させるほか、将来的には3次元設計データから部品表(BOM)や製造工程表(BOP)を自動生成する機能、類似形状の高速検索によるバーチャル試作検証などを順次実装していく方針である。現実の物理現象をデジタルで捉えて自律制御を行うフィジカルAIの領域への展開も見据え、進化したLumada 3.0を具現化するHMAX Industryの中核技術として産業全体の変革を後押ししていく構えだ。
製造現場に蓄積された熟練技術者の暗黙知を組織の共有資産へと進化させ、3次元CADデータと連動して品質を底上げするこの取り組みは、技術継承の難題に直面する日本の製造業が強固な競争力を維持するための確固たる礎となる。




