建設・製造現場の熱中症対策を革新するAIセンサー技術
2025年7月16日 11時00分更新
建設・製造業向けにIoTソリューションを提供するBeeInventor株式会社が、AIとセンサー技術を活用した「熱中症事前アラートシステム」の開発で、日本貿易振興機構(JETRO)の補助金事業に採択された。JETROが推進する「対内直接投資促進事業費補助金」は、先進技術を国内に導入する外資系企業や海外スタートアップとの連携を支援する制度で、今回の選定は、同社の取り組みが日本社会における重要課題の解決に資すると評価されたものと考えられる。
気象庁によると、2024年の日本の年平均気温は過去最高水準を記録し、同年には職場での熱中症による休業4日以上の災害件数が1,257件と過去最多となった。そのうち約4割が建設業と製造業に集中しており、現場労働におけるリスクの深刻化が浮き彫りになっている。これを受け、厚生労働省は2025年6月1日より罰則付きの熱中症対策義務化を開始する方針を示しているが、現場ではいまだにデータに基づいた予防型の体制が整っていないのが実情だ。

BeeInventorが進める「熱中症事前アラートシステム」は、こうした状況に一石を投じるものだ。センサーを内蔵または後付け可能なスマートヘルメットを用い、作業者の深部体温、心拍数、WBGT(暑さ指数)などをリアルタイムで測定。これに個人の年齢や性別などの要因を加味し、AIが数分先の熱中症リスクを予測する仕組みだ。異常が検知されれば、作業者自身のスマートフォンだけでなく、現場監督者の端末にも即座にアラートが通知され、迅速な対応を促す。

このシステムの開発は、福岡県の産業医科大学との産学連携によって進められており、ヘルメットは一体型と後付け型の2種を展開予定。既存設備を活用しつつ導入できる柔軟性が特長だ。また、気温・湿度・輻射熱の複合的な情報から暑さ指数を測定し、従来の一律的な警告ではなく、個々人に応じたリスクレベルの算出が可能となっている。クラウドとの連携による情報集約と警告発信により、重症化を未然に防ぐ体制が構築される。
今後は全国各地の建設・製造現場と連携した実証実験を進め、地域や個人差を反映したアルゴリズムの精度向上を図る。また、建設業以外の業種への横展開も視野に入れており、プロダクトの柔軟性と適応範囲をさらに拡大していく方針だ。将来的には日本国内のみならず、アジア地域を含むグローバル市場での展開も見据えているという。BeeInventorは台湾発のスタートアップ企業で、福岡を拠点にアジアに複数の開発拠点を持つ。建設・製造現場における安全管理と業務効率の向上を支援するIoTソリューションを展開しており、スマートヘルメット「DasLoop」をはじめとした製品は、現場作業員の位置情報や体調をリアルタイムで可視化することで事故の未然防止に寄与している。
今回のJETRO補助金採択は、同社の技術と取り組みが日本の労働安全分野におけるイノベーションとして期待されている証でもある。過酷な労働環境を可視化し、AIによって予測・防御するという新たな安全基準は、今後の建設・製造業界において広く普及する可能性を秘めている。
労働者の命を守るためには、発症後の対応ではなく、予兆段階での予防が重要だ。BeeInventorのアプローチは、技術によって「まだ大丈夫」を見極め、未来の事故を防ぐ新たな道を提示していると言えそうだ。今後の実用化と全国への導入に注目が集まる。