AIが“神対応”を支援 ベネッセの新介護システムの可能性

2025年7月11日 11時00分更新


 ベネッセスタイルケアが開発を進める介護支援システム「マジ神AI」が、介護現場の業務効率化とご入居者のQOL(生活の質)向上に貢献する可能性を示している。同社グループが設けた社内シンクタンク「ベネッセ シニア・介護研究所」は、このAIシステムの活用効果について2025年5月末から6月初旬にかけて開催された学会で発表を行っており、その内容が注目を集めている。

 「マジ神AI」は、高い専門性をもつ介護職員、通称“マジ神”が持つノウハウをAIに落とし込み、経験の浅い職員でも質の高い介護を実践できるよう支援するシステムだ。AIは日々蓄積されるご入居者の情報を分析し、状態変化の兆しや心理的なサインを可視化するダッシュボードを提供しており、このシステムを導入した施設では、職員の情報収集の傾向にも変化が見られたという。AIを活用している職員は、テキストよりも定量データに注目しやすく、先に数値的なデータを確認してから記録の文章に目を通す傾向が強いとされている。これは、専門性の高い“マジ神”たちと同様の情報収集スタイルであり、AIの利用がプロフェッショナルと同等の判断力を育む可能性を示している。

 システムの活用が介護の質にもたらす影響についても興味深い検証結果が報告されており、AIを先行導入した全国31施設を対象に、導入前と導入後でのご入居者の状態変化を比較分析したところ、AI活用度の高い施設では、ご入居者の様子に関する記録のうち「快」と表現された記録の割合が増加、逆に「不快」や事故記録の割合は減少していたという。この差には統計的に有意な違いが見られたとされ、AIが提供する情報に基づいて的確なケアを行うことが、ご入居者の安心感や生活の安定に寄与していることが示唆される結果となった。

 ベネッセスタイルケアでは、こうしたAIを通じた介護支援を人材育成にも活用している。具体的には、「マジ神AI」が記録を分析・整理することで、経験が浅い職員でも状況の把握や判断がしやすくなり、専門職の技術や感覚に少しでも近づくことができるよう支援しているとのことだ。このような取り組みは、介護現場における人手不足という社会課題への有効な一手になる可能性を秘めている。さらに、今回の研究成果は日本認知症ケア学会や人工知能学会などで複数の演題として発表されており、学術的な関心も高まっているようだ。

 同社は今後もAI技術のさらなる活用と検証を進めていく意向を示しており、「その方らしさに、深く寄りそう。」という企業理念の実現に向けて、テクノロジーと人の力を融合させた介護の在り方を模索していく方針だそうだ。介護の現場は今、経験と感覚に頼るだけではなく、データとAIを活用した次のステージへと向かっているのかもしれない。高齢化が進む日本において、こうした革新がどのように社会に影響を与えていくのか、今後の展開にも注目したいところだ。

 加えて、今後の課題としては、AIを使いこなす職員の教育体制や、データ活用に関する倫理的な視点も重要になってくると考えられる。テクノロジーが介護を補助する手段となる一方で、「人らしさ」や「寄り添う姿勢」をいかに維持していくかが問われる時代になりつつあるようだ。現場の負担を軽減しながら、ご入居者の満足度も高める——その両立を目指すベネッセの取り組みは、介護の未来を考える上で多くのヒントを与えてくれるものと言える。

参照URL:https://www.benesse-style-care.co.jp/uploads/d7404832386504824ffdeab39d901978.pdf

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