【SoftBank World 2018】ソフトバンク孫社長「AIで人々をもっと幸せに」
2018年7月23日 17時12分更新
「未来の進化を自分で止めているという危機的な状況だ。そんなばかな国があることが信じられない」
7月19日に都内で開催された「SoftBank World 2018」での一幕だ。基調講演に登壇したソフトバンクグループ 代表取締役会長 兼 社長の孫正義氏は、政府の対応を強く批判した。
まずは講演冒頭。いつものように静かに語り出した孫氏。だが、この日はかつてない力強さをもって会場の聴衆に訴えかけた。
「未来のことはよく分からないから現状を精一杯生きるべきだと言う人がいるが、本当にそれでいいのでしょうか。日本の多くのビジネスマンが受け身の姿勢で、精一杯そこで生きていければそれでいいのではないかと思っている。そういうことに、私は危機感を覚えている」
「本当に未来はわからないのか。真剣にわかろうとしていないのではないか」
かねてより孫氏が決算発表会などで繰り返し語ってきたシンギュラリティ。この日もその重要性を説き、「シンギュラリティはもう1つのビッグバン。一言でいうと人工知能。人工知能の叡智が人間の叡智を超えていったときに、超知性が生まれ、その超知性はあらゆる産業を再定義していく。これは、人類史上最大の革命だと思っている」と述べた。
そして、ソフトバンクの中核事業の1つである通信もAIのためのものだとして、「これから通信が進化していき、AIと有機的につながって連動すると、AIの進化というのは恐ろしい勢いで、今から二次曲線で伸びていく」と語った。
例えば、どんな仕事がいつ頃AIによって代替されるのかといった議論について、オックスフォード大学がまとめた予測を紹介しながら、「それぞれの仕事が2024年や2027年や2030年と書いてあるが、それが2〜3年早いか遅いか、本当に抜かれたのか抜かれてないのかというのは、私に言わせれば誤差だ」として、大事なのは「(未来は)その方向に向かっていて、1回抜かれたら2度と追い越せないというぐらい差が一気に開いていく」ことだとした。
すると、ここで孫氏の表情が一変。これまでの口調と変わり、荒々しさも増していく。
「AIはこれから我々の生活になくてはならないものになる。そういう状況になるということがわかっているならば、1日でも早くやった者が勝つ。それがわかっているのに、なぜ取り組まないのか。なぜ全力で、ほかのことは全部忘れていいというぐらいの勢いで取り組まないのか。それをできていないということは、まだ甘い。まだ自分の仕事を真剣にやっていない」
そしてその直後、話題が次のテーマに移り、孫氏のボルテージが最高潮を迎えると、冒頭の「政府批判」ともいえる言葉が発せられた。
孫氏は、次世代の交通網として世界で広がるライドシェアが日本の法律で規制されていることについて、「こんなばかな国があるということが信じられない」として、政府の対応を痛烈に批判。さらに、「国が未来の進化を自分で止めている」と述べ、「過去を守りたい、未来を否定する、もう考えられない状況だ」と怒りを露わにしたのだ。
ソフトバンクは同日、中国の配車サービス大手滴滴出行と合弁会社設立を発表。AIを活用したタクシー会社向けの配車システムを今秋から日本で提供する。滴滴は世界でライドシェアを展開しているが、日本の道路運送法では「白タク」サービスとして禁止されているため、まずは配車サービスから事業を広げることになる。
米国や中国、東南アジアではライドシェアが広がっている。AI事業で遅れをとる日本。孫氏の「政府批判」は、日本の危機的状況を嘆く、心の声なのだろう。
約3時間にも及んだ基調講演。最後に孫氏は、ソフトバンクグループのAIとの接し方について、「AIは単にお金儲けのものではない。人々をより幸せにするためにある。AIを使って人々をもっと幸せにしたい。ソフトバンクグループは、そう願っている」と語り、拍手に送られて降壇した。
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