千葉大学大学院社会科学研究院の倉阪秀史教授と、認定NPO法人環境エネルギー政策研究所は、日本国内の市町村別の再生可能エネルギーの供給実態などを把握する「永続地帯」研究を進めている。このたび15年目となる2020年度の報告書を公表した。
【今回の試算結果】
1.2019年度は風力発電と地熱発電の伸び率が、太陽光発電の伸び率を上回る。
2012年7月に施行された再生可能エネルギー特別措置法に基づく固定価格買取制度により、これまで運転開始までの期間が短い太陽光発電が主に増加してきたが、ようやく風力発電や地熱発電の大型案件が運転開始するようになった。2019年度は、太陽光発電の対前年度伸び率(6%増)を、風力発電(12%増)と地熱発電(13%増)の伸び率が上回った。一方、固定価格買取制度の対象となっていない再生可能エネルギー熱供給は全体で4%減少。太陽熱利用、バイオマス熱利用ともに5%減となっている。再エネ熱供給を促進する政策が求められる(表1)。
2.都道府県別エネルギー自給率ランキングで秋田県が1位。
地域的な再生可能エネルギー供給が域内の民生用+農林水産業用エネルギー需要の10%を超える都道府県が、2019年度に41道県になった(2012年度はわずか8県)。まだ10%に達していない都道府県は、埼玉県(7.7%)、沖縄県(7.1%)、京都府(6.9%)、神奈川県(5.5%)、大阪府(4.9%)、東京都(2.1%)の6都府県。地域的エネルギー自給率ランクの1位が秋田県となったが、新たな大型地熱発電や風力発電の運転開始が影響している。ランキング上位3県は、地域的エネルギー自給率が40%を超えた。自給率30%を超える県は前年度から3県増え10県となり、20%を超える県は5県増加し26県となっている。
□地域的エネルギー自給率ランキング
1位 秋田県 45.1%
2位 大分県 43.3%
3位 鹿児島県 41.5%
4位 群馬県 37.6%
5位 宮崎県 37.0%
6位 三重県 34.0%
7位 福島県 32.8%
8位 熊本県 31.0%
9位 栃木県 30.4%
10位 茨城県 30.3%
3.100%エネルギー永続地帯市町村は138に増加、電力永続地帯は226に増加
域内の民生用+農林水産業用エネルギー需要を上回る再生可能エネルギーを生み出している市町村(エネルギー永続地帯)は、2011年度に50だったところ、2019年度には138に増加している。また、域内の民生用+農林水産業用電力需要を上回る量の再生可能エネルギー電力を生み出している市町村(電力永続地帯)も、2011年度に84だったが、2019年度には226に増加した。
4.2011年度から2019年度にかけて、国内の再生可能エネルギー供給量は約3.4倍に。
再生可能エネルギー電力供給が増加した結果、2011年度に比べて2019年度は再生可能エネルギー供給が3.4倍となっている。この結果、国全体での地域的エネルギー需要(民生用+農林水産業用エネルギー需要)に占める再生可能エネルギー供給量の比率(地域的エネルギー自給率)は3.8%(2011年度)から、13.5%(2017年度)、14.9%(2018年度)、15.6%(2019年度)と増加している(表1)。
5.永続地帯市町村数は、10増加して80に。
2019年度に、食料自給率(カロリーベース)が100%を超えている市町村は、571あった。エネルギー永続地帯138市町村のうち、食料自給率も100%を超えた市町村(永続地帯市町村)は10増加し80になった。これらの市町村は、まさに「永続地帯」であると言える。永続地帯市町村数は、2016年度に44、2017年度に58、2018年度に70と増加している。
住み続けるために必要なエネルギーと食糧を地域で生み出すことができる市町村
【北海道:16】 稚内市、紋別市、森町、江差町、上ノ国町、せたな町、蘭越町、ニセコ町、苫前町、幌延町、壮瞥町、安平町、様似町、更別村、豊頃町、白糠町【青森県:6】深浦町、七戸町、横浜町、六ケ所村、東通村、新郷村、【岩手県:5】 八幡平市、雫石町、葛巻町、軽米町、一戸町【宮城県:3】蔵王町、七ケ宿町、大郷町【秋田県:5】 湯沢市、鹿角市、にかほ市、三種町、八峰町、【山形県:3】 朝日町、大蔵村、遊佐町【福島県:4】下郷町、柳津町、小野町、川内村、【栃木県:3】 那須烏山市、塩谷町、那珂川町【群馬県:3】 長野原町、嬬恋村、昭和村【富山県:1】朝日町、【石川県:2】志賀町、宝達志水町【山梨県:1】 北杜市【長野県:5】 小海町、長和町、飯島町、信濃町、栄村【三重県:1】 多気町【鳥取県:1】 伯耆町【岡山県:2】鏡野町、久米南町、【徳島県:1】 阿波市、【愛媛県:1】 久万高原町、【高知県:1】 大月町【福岡県:1】赤村、【熊本県:6】小国町、西原村、山都町、錦町、水上村、相良村【大分県:2】 豊後大野市、九 重町、【宮崎県:3】 川南町、都農町、五ケ瀬町【鹿児島県:4】 長島町、湧水町、大崎町、南大隅町
「永続地帯市町村」:域内の民生・農水用エネルギー需要を上回る量の再生可能エネルギーを生み出している市町村であって、 カロリーベースの食料自給率が100%を超えている市町村
「永続地帯」研究の最新結果では、2020年3月末時点で稼働している再生可能エネルギー設備を把握し、その設備が年間にわたって稼働した場合のエネルギー供給量を推計(一部は実績値を採用)。
「永続地帯(sustainable zone)」とは
その区域で得られる再生可能エネルギーと食料によって、その区域におけるエネルギー需要と食料需要のすべてを賄うことができる区域のこと
「エネルギー永続地帯」とは
再生可能エネルギーで自給できる市町村のことで、域内の民生用+農林水産業用エネルギー需要を域内で生み出された再生可能エネルギーで供給できる市町村のこと
「電力永続地帯」とは
域内の民生用+農林水産業用電力需要を上回る量の再生可能エネルギー電力を生み出している市町村のこと
「永続地帯市町村」とは
域内の民生用+農林水産業用エネルギー需要を上回る量の再生可能エネルギーを生み出している市町村であって、カロリーベースの食料自給率が100%を超えている市町村のこと
「永続地帯2020年度版報告書」
https://sustainable-zone.com/