【モバイルフォーラム2017 基調講演2】普及拡大期に入ったMVNOサービスのカギは「安心」「手軽さ」「ユーザ体験」

2017年3月21日 16時45分更新


 テレコムサービス協会MVNO委員会が主催したイベント「モバイルフォーラム2017」では、「MVNOサービスの多様化と安心・安全の取り組み」をテーマに、総務省担当者・アナリスト・サービス提供者などが基調講演を行った。
 本稿では、三菱総合研究所 社会ICT事業本部 ICT・メディア戦略グループ主席研究員 西角直樹氏による基調講演「普及拡大期に入ったMVNOサービスの進化と新たな課題」の内容についてご紹介する。
 
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普及拡大期に入ったMVNO

 SIM型MVNOの普及率が5%を突破した。ワイモバイルを含め、消費者が「格安スマホ」と認知しているマーケットはさらに大きくなった。
 これまでMVNOマーケットは普及初期にあったが、いわゆるイノベーター理論における「イノベーター」「アーリー・アダプター」という新しいモノ好きの層は、マーケット全体の16%程度となった。
 MVNOは、最終普及率が100%となるタイプのサービスではないため、たとえばMVNOの普及上限を移動体市場の30%と仮定すると、現在、アーリー・アダプターの16%の層が利用し、普及拡大期の入り口を4.8%(=16%×0.3)程度とみることができる。
 つまり、これからMVNOを利用する層は「アーリー・マジョリティ」であり、MVNOは普及拡大期に入ることを意味し、MVNOマーケットのステージが変わる節目を迎えている。
 
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 では、「普及初期」と「普及拡大期」では、いったい何が変わるか。
 普及初期はアーリー・アダプターが使っていたが、これからはアーリー・マジョリティが使う。消費者の性質の違いという観点でいえば、普及初期には機能や性能重視の人が多かったのに対し、これからは簡単・利便性が重視される。また、サービスタイプは一点突破型よりもバランス型・総合型のサービスが好まれる。
 あるいは、新規より安定が好まれ、高速・低価格より使い勝手やユーザー体験が好まれる。また、情報入手の仕方や加入の仕方も、ネットでの情報収集より、友達に薦められたりテレビCMを見て決める人が増えるなど、性質の違いが現れてくる。
 
 これからは、普及拡大期に入ったということを意識した戦略の変化が、MVNOに求められる。実際、CMが多く流れているのも、その表れである。キーワードとしては、「安心感」や「手軽さ」、あるいは使ってみて良かったという「ユーザー体験」が重視されていく。場合によっては、大手事業者への集中を招く可能性も考えておく必要がある。
 
 普及拡大期に入ったことで、改めて「MVNOはなぜ必要なのか?」ということを問い直す時期に来ている。
 普及初期は、とにかくMVNOを大きくすることだけを考えていた時期であったが、これからは「MVNOは移動通信市場の発展に貢献できているのか」が問われる。
 これまでMVNOは大きな成果を残してきた。料金低下、サービスの多様化、不便の解消など。これらは、既存のMNOが抱えていった問題点であり、MVNOはそれを利点としてきた。しかし、その構造は、MNOが追随して問題点を解消することで、MVNOの存在意義が消えてしまうという危うい構造を意味している。
 こういった問題に対し、今後求められる役割は2つある。1つは、既存MNOに類するものとして、より深いレベルでの競争を進めていくこと。究極的には、「MNOになる」というが最終形ではあるが、それに近いところで勝負をしていく。もうひとつは、MVNOは持たざる者として、その強みを発揮したイノベーションの追求を行う。
 これら2つの方向性により、移動通信市場の本当の発展に、MVNOが貢献していく姿を示すことが、今後は求められていく。
 

MVNO業界の進化の方向性

 政策の方向性として、MVNO市場拡大のために、MNOとMVNOのイコールフィッティング(競争条件の同一化)を意図した政策が維持・強化されてきた。
 たとえば、端末販売奨励金の適正化が行われることで、2016年2月にキャリア端末の販売数が急減しニュースになった。結果として、SIMフリー端末の売り場が拡大し、その後のSIMフリー端末ブームに繋がったという効果があった。
 また、接続料の算定方法を見直したことで、今後はMNO3社の接続料格差が縮小し、ドコモ以外のホストMNOとするMVNOが増加すると考えられる。そして、「MVNOロック」が原則禁止され、日本通信がソフトバンクをホストMNOとする格安SIM型のMVNO/MVNEサービスを開始する予定となっている。
 
 このように、政策が効果的に効き、マーケットが実際に動いている。累次の政策措置により、構造的な問題はかなり解消されつつある。
 今後は、小売料金を値下げした場合の卸売料金との関係性など、経済的な問題は引き続き残り、そこに焦点が移っていく可能性があるため、そういった部分の政策的措置が必要かと思われる。
 
 イコールフィッティングについては、進展している一方で、新しい課題も出てきている。これまでは、競争条件を揃えるということにおいて、貸す側と借りる側の関係があり、この関係性をいかに適正化するかということに重点があった。
 しかし、もう少し広く見てみると、メインブランドとサブブランドがあったり、子会社MVNOを抱えるという形も出てきている。そうすると、貸す側と借りる側の関係を見るだけでは十分ではなくなってきている。
「ホストMNOとの関係はそもそも競争といえるのか?同じ陣営の仲間、販売パートナーとはいえないか?」
「サブブランドや子会社MVNOと、一般MVNOとの間のイコールフィッティングについてはどう考えるべきか?」
 今後は、こういった見方も注視していく必要が出て来ると考えられる。

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 消費者保護についても、MVNOが普及拡大期に入ったことで、MNOと同等レベルの消費者保護や不正利用防止などの機能に対する要請が強まる可能性がある。
 「不正利用防止」に関していえば、MVNOとMNOともに、「携帯電話不正利用防止法」に基づく本人確認義務が課されているが、「フィルタリング」や「実行速度開示」などテーマによっては、MVNOとMNOに対する義務や要請のレベルに差がある。
 これについては、揃えることが正しいということではなく、MVNOの特徴と消費者保護への要請とを、コストベネフィットも考慮し、業界の自主努力などを通じて、マーケットのチカラでバランスさせていくことが大事である。
 
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 MVNOの今後の課題として、サービスの差別化がある。MVNOとは「バーチャルオペレーター」であり、本質は「持たない」ことである。タクシーを持たないUber、ホテルを持たないAirBnB、商店を持たないアリババなど。バーチャルオペレーターは非常に勢いがある。
 携帯の世界で考えてみると、MNOは国、周波数帯、自前設備、過去の投資、法令など色々なものに縛られている。一方、そういったところで縛られないことにMVNOの本質的な強みである。
 国や周波数帯をまたがるサービス、設備に縛られない身軽なサービス、新技術と破壊的技術への実験的な取り組み、自由度が高く法令順守コストの低いサービスなど、持たざるものの強みを活かして、移動体業界のイノベーションを主導する役割が期待される。
 
 技術進化の方向性というテーマで、ご紹介したいのが「e-SIM」である。e-SIMには2つの側面がある。1つは、デバイスに埋め込まれて着脱できないSIM、もうひとつは、リモートプロビジョニングが可能なSIM。
 MVNOが発展した背景には、端末とSIMを切り離して売買できる、買ってきた端末にあとから別のSIMを入れられるということがある。
一方、e-SIMは、SIMがあらかじめあって、そこに回線契約をあとから自由に入れ替えることができる。SIMと回線契約が分離されることになる。
 
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 そうすることで、新たな変革が起こる可能性がある。e-SIM、とくにコンシューマ向けのe-SIMは、モバイル業界構造に地殻変動をもたらす可能性を秘めた技術である。
 e-SIMの影響については、OfcomがCSMGに委託した調査によれば、e-SIMの利用進展は業界や利用者に多大な利益をもたらすが、MNOはスワッピング(事業者の一時的な変更)の導入によって負の影響を受けるとの懸念がある。
 また、MS&C社のインタビュー調査によれば、MVNOの半数以上がe-SIM普及の影響をポジティブに捉えている。物理的なSIMの流通から開放され、競争が促進される効果が大きいと想定される。
 e-SIM普及によるメリットとデメリットはあるものの、来るe-SIM時代に備えてMVNOも早期に生き残り戦略を模索する必要がある。
 
 
 

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