ソフトバンクが英ARMを3.3兆円で買収、孫社長「私にとって最もエキサイティングな日」
2016年7月19日 21時17分更新
ソフトバンクの孫正義社長は、会見冒頭、「今回の買収の件は、私が10年来考えてきた案件であり、いよいよその日がやってきた。ソフトバンクの創業以来、今日が僕にとっては最もエキサイティングな日であると思っている」と語った。
いつになく興奮した様子の同氏は、続けて、「今までソフトバンクは、日本で3位、アメリカで4位といったものが多かったが、我々ソフトバンクが直接オペレーションする事業、私が直接関わる事業として『世界一』をあまり持っていなかった。今回初めて、我々がその分野で世界一を保有することになり、しかも、その分野がこれからの人類の歴史の中で、最もエキサイティングな、最も重要な産業になるであろうと思われるところに戦略的な手を打てた。このことが、私にとって最もエキサイティングである理由です」とコメント。自身の中にある熱い思いを伝える会見をスタートさせた。
ARMを約3.3兆円の買収で合意
ソフトバンクグループの代表取締役社長である孫正義氏は7月18日、ロンドンで会見を開き、英半導体設計大手のARM(アーム)ホールディングスを100%買収することで合意したと発表した。買収額は、約240億ポンド(約3.3兆円)。日本企業による海外でのM&Aとしては過去最大規模となる。
買収に係る費用の一部は、同社とみずほ銀行との間で締結されたブリッジローン契約による1兆円の借入により調達され、残額については、同社保有の手元資金で賄う予定である。また、取引条件としては1株当たり1700ペンス、ARM取締役会も全会一致でこれを指示して株主へ推奨するとし、孫社長は「非常にフレンドリーなディール(取引)である」と述べた。
今後のスケジュールとしては、ARM社の株主や公的機関などの承認を得て、9月末までに同社全株式を買い取り、完全子会社にする予定。孫氏によれば、「全体のプロセスは数カ月程度。半年や1年はかからない」という。
ARM買収の”狙い”
ソフトバンクが買収するARM社は、半導体の心臓部であるCPU(中央演算処理装置)の設計に優れており、その設計図を半導体メーカーに提供する企業である。
スマートフォンに搭載される半導体の約9割にARM社の技術が使われるなど、その最新技術は米アップルや韓国サムスン電子、中国のファーウェイが採用し、「IoT」の領域でも攻勢を強めている。
そこで、ソフトバンクは、「IoT」領域に独自の基盤技術を保有し強みを持つARM社を買収することで、これからのシンギュラリティ時代を見据えた巨大市場の需要を取り込む狙いである。孫氏は、「(IoTという)市場の成長ポテンシャルがソフトバンクの長期的ビジョンに適合する投資である」と述べた。
40年前の『原点』
孫氏は、今回のARM社の買収を「運命的な決断」と表現している。遡ること40年前、同氏が19歳のとき、サイエンスマガジンの中の1枚の写真を見て、両手両足の指がジーンとしびれて感動し、涙が止まらなくなったという。その写真とは、指先に乗っかるチップの拡大写真であった。その小さなチップが、いずれ人類の脳細胞の働きを遥かに超えていくであろうと思い、その怖さと感激と興奮によって、涙が止まらなくなったというのだ。
そして今回、孫氏は40年前に見た人類の小さな発明品に直接関わる決断ができたことを、「私の事業家としての人生、私自身の人生の中で最もハイライトをあてるべき日が今日のこの日だと思っている」として、長年の思いとともに興奮した様子で語った。
人類史上最も大きなパラダイムシフト『IoT』
今回の会見で孫氏が最も強く語っていたこと、それは、「IoTは人類史上最も大きなパラダイムシフトになる」ということである。同氏は、これからのIoTについて、「あらゆるものが、これからは何十倍も何百倍もつながっていく。30年後には、1人の人間に換算すると、1,000個くらいがつながる。例えば道路にある電柱も、街灯も、街の中のありとあらゆるものがつながる。産業用のジェットエンジンも自動車のエンジンも。30年経ってみると、おそろしくつながっている。ある日突然くるのではなくて、二次曲線で急激に広がっていく」と自身の考えを述べ、「だからこそ、その入り口で投資をする」と、今回の投資タイミングを語った。ソフトバンクとARMとで連携することで、IoT事業を強化し、この大きなパラダイムシフトを牽引していきたい考えだ。
ARMがソフトバンクグループの中核事業になる
今回の買収金額が高いのではということについて、孫社長は、「今までのソフトバンクにとっては一番大きい金額であり、株式市場でついている値段に約43%のプレミアムを払うというのは、ある見方では高いと言えるかもしれないが、それは過去の利益に対するプレミアムであり、これからARMが得るであろう成長余力ということでいえば、5~10年後を見れば、非常に安く買えたと理解してもらえると思う」と持論を展開した。
先日副社長を退任したニケシュ・アローラ氏が今回の買収に関わっているかという問いに対しては、ARMへ正式にアプローチしたのは2週間前、同氏が退任した後のことであり、今回の件にアローラ氏は関わっていないとのこと。
また、ARMがソフトバンクに買収されることにより、ARMのこれまでの取引関係に影響が生じるのではないかという危惧については、「ソフトバンクは今まで半導体チップを買ってもいないし、使ってもいない。ARMの取引先であるチップメーカーとは競合するものがなく、完全な中立だと思っている」と述べた。
さらに、ARMの今後の経営について問われると、「ARMの今の経営陣は非常に有能」と高く評価し、現在のまま継続していく考えを示した。その一方で、中期的あるいは長期的な戦略には非常に強く関わり、サポートしていきたいとして、新たなビジネスモデルとして追加していく部分についてはどんどん関わっていきたいとしている。
ARM買収にかける熱い思い
今回の買収は、ソフトバンクにとってこれまで行ってきた買収案件の中でも最も大規模なものである。今後、ARMが成長戦略の重要な柱になるとして、力強く意気込みを語った孫社長。記者会見は、英国向けと日本向けで計3時間20分超にも及んだ。
アリババ株、ガンホー株、スーパーセル株の売却で得る2兆円を資金に、新たな挑戦に打って出るソフトバンク。40年間の思いとともに、孫社長はこれまでにないほど熱くなっている。