【第19回国際電子出版EXPO】「Newstand アプリで見せる電子公告」

2014年7月7日 17時10分更新

 7月2日から5日にかけて、東京ビックサイトにて国内最大の本の展示会「第21回東京国際ブックフェア」が開催された。電子書籍の最新サービスなどを展示する「第19回国際電子出版EXPO」など5つのイベントも併催されており、過去最多の1500を越える出展ブースが並んだ。
 出版業界ではやはり電子化の流れが大きく、各社がその取り組みを紹介していた。しかしまだまだ市場が整備されている状況とは言いづらく、サービスが氾濫しているカオスな状態に見える。特に自社で電子出版のインフラを持たない中小の出版社にとって、大きなビジネスチャンスである反面、手探りで進めざるをえない環境だ。国際電子出版EXPOにて7月3日、株式会社モリサワが行なったセミナー「Newsstandアプリで見せる電子広告」では、自社のNewsstandアプリによって10万ダウンロードを達成した柴田書店の例を交えて、如何に電子出版を成功させていくのかが語られた。その内容を見ていこう。

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 セミナーはモリサワの赤生氏と柴田書店の丸山氏のトークセッションのような形で行われた。
 まず「Newsstand」について簡単に説明したい。「Newsstand」はiPhoneやiPadといったiOS端末にプリインストールされている、雑誌や新聞を購読できるアプリである。定期購読もでき、過去のバックナンバーも保管できるので、雑誌をまとめておいておける本棚のようなアプリである。
 モリサワの「Newsstandアプリ」はこのNewsstandに配信するコンテンツの作成から配信までをサポートするアプリであり、PDFデータさえあれば手軽にコンテンツ配信ができる。モリサワのアプリは日本国内で販売されているNewsstandの定期刊行物の約40%で採用されているという。

 今回のセミナーで取り上げられた柴田書店は60年以上続く「食」の専門出版社である。刊行している4つの雑誌の内、唯一電子化されているのが「cafe-sweets」という雑誌であり、今回の具体的事例である。
 「cafe-sweets」はその名の通りカフェやパン、スイーツに関する専門誌であり、国内だけでなく海外の情報も含めて、店舗や商品、技術の紹介をしている雑誌だ。Newsstandに配信開始後、10ヶ月で無料の試し読みは10万ダウンロードを達成し、右肩上がりの結果を残せている。値段に関しても、資料性の高い雑誌と柴田書店も自負しているおり、紙媒体とのバランスを取るのもあって安くしているわけではない。
 一方、実はNewsstandに配信する以前も電子化に取り組んでいたのだが、そちらは上手く行かなかったという。Newsstandでは成功できた理由はなんだったのだろうか。

 1つには、Newsstandにリリース開始後、すぐにAppleに取り上げられ、store画面の上部で紹介されたのが大きかったという。当時は「食」に関するコンテンツが少なく、それもあって紹介されたのだろうと語る。
 2つ目にNewsstandの自動継続機能が挙げられた。一度定期購読を申し込むと、わざわざオフにしなければ自動的に購読が継続する設定になっており、新規の客を逃しにくいようになっている。定期購読してくれているのは無料版をダウンロードしたうちの1%程度だという。
 3つ目は見ている人の母数の多さだ。「cafe-sweets」はNewsstand以外にも配信しているが、やはり露出の高さという面ではAppleのサービスというだけあってNewsstandの方が高い。広く配信するために、Newsstandのみに絞るということはしないが、売上には差がでているのも事実だという。見ている人の母数というのはかなり意識され、Newsstandと他のサービスとの違いという点で、一番大きいだろうと語る。

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紙媒体と同じく綺麗な写真を楽しめる

 他にもNewsstandのメリットは挙げられる。まずプッシュ通知の機能だ。定期購読している読者にすぐ最新号の通知を伝えられるだけでなく、お試し版をダンロードした人にも通知をできるのがポイントだ。他にも新刊が出ると自動でダウンロードされる点、そのことによって表紙が最新号に自動で切り替えられる。
 またモリサワのアプリならではの点も挙げられた。バックナンバーやモックをアプリ内で単独で買うことができる点や読者の閲覧ログの取得ができる点だ。特に後者に関しては、閲覧回数や閲覧箇所、読書時間といったものは特集を組むときに参考になるし、雑誌にフィードバックすることができる。特に読者の位置情報には驚いたという。想像していたよりも海外から読まれている事がわかり、「cafe-sweets」の場合は東南アジア、東アジアから多く見てもらえていた。雑誌の翻訳のオファーも増え、Appleの露出の高さを実感させられたという。この点は多くの出版社が注目してくる点ではないかと柴田書店の丸山氏は語る。

 課題は如何に無料のお試し版をダウンロードしたのユーザーを購読まで引き上げるかという点にある。柴田書店はそこで電子公告という手段をとった。無料ダウンロードした10万人のユーザーに届けられるという点で、数字を活かした戦略だ。「cafe-sweets」ではネスレと有名シェフのコラボ広告を配信。通常の紙面とは異なるものを、ということで、HTMLなどをつかったリッチコンテンツとして作成し、紙では表現できない動きをつけたものとなった。初めての試みということもあり予算も控えめで、ネスレ側も提案当初はいまいち手応えがなかったが、結果的には2500~3000PVという数字を出し、売上にもつながったことで好反応をもらえたという。
 電子公告は社内ではペーパーレスにつながり、営業もiPadでみせることで話題作りでき、いい反応を得ることができた。予算に合わせてつくれるのも良い点だと丸山氏は語った。

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ネスレの商品を使ってシェフが作成したデザートレシピが、広告には掲載されている

 何故モリサワのアプリを選んだのかという点も語られた。先に述べた独自機能もだが、Appleとの強いパイプがあったのが一番のポイントとなった。国内のNewsstandの定期刊行物の40%で採用されている実績・経験があるので色々相談でき、安定した機能を持っているのもある。
 また電子出版に取り組むにあたっての懸念も解消されたという。編集のフロートとしては、著作権上で外さなければいけない素材や広告のチェック程度で、既存の人員でこなせているためにコスト面や手間はそこまで負担になっておらず、技術的な面はモリサワやモリサワのパートナー企業に任せられるようになっている。紙媒体への影響もなく、むしろ紙媒体のPRにも活用できて売上は上がったという。読者の反応も上々で、写真のきれいさやアジア圏からの反応もあり、柴田書店をしってもらうにはいい宣伝になっている。今後の取り組みとしては紙と電子の両方でクライアントと相談し、平行して取り組んでいくという。

 最後に、モリサワの赤生氏は「cafe-sweets」の例から電子出版にあたっての以下のようなポイントを述べた。雑誌の無料ダウンロードをした中で定期購読するユーザーの割合が1%というのは平均の数字と捉えられる。これを念頭におき、ダウンロード数が落ちた時にどう対応するか、無料分で如何にインパクトを与えるか、会社がどれだけリソースを割けるか、DLを増やし、プッシュ通知を活用し、読者に常にアプリを開かせるようにすべき、というようなポイントに注意すべきだという。そして電子公告配信し、さらに収益を上げていくスタイルを提案していきたいと述べ、セミナーを終えた。

 今後、モリサワ側はアプリに手書き入力やiBeaconなどの新機能を付ける予定だという。詳細は次の記事を参照してもらいたい。
・DenpaNews:【第19回国際電子出版EXPO】iBeaconに対応した電子雑誌の登場――モリサワブース
 http://www.denpanews.jp/etc/20140707_1244.html

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