孫社長「情報革命で人々を幸せにする」 ―SoftBank World 2016 基調講演

2016年7月22日 21時20分更新

 ソフトバンクグループの孫正義社長は7月21日(木)、東京・港区で開催された「SoftBank World 2016」の基調講演に登壇し、一つ一つ思い出すように、”その時”のことをゆっくりと語り出した。

 この登壇より2週間前、トルコの港町のレストランで、ある2人とランチをした。その2人というのが、電撃で買収を発表したARMの会長、そして社長である。テロ発生直後のトルコ。危険であることを承知の上で、2人に伝えたいことがあった。
 その日、「ARM買収」について初めて提案をしたという。

 それからわずか2週間後、あの日本経済史上最大規模の買収発表が行われた。
 
 

シンギュラリティに対する「答え」が”ARM”

 
 孫社長が度々口にするようになったキーワード、「シンギュラリティ」。人工知能が人間の能力を超えることで起こり得る出来事。「技術的特異点」である。
 孫氏は、「(このことに対して)私なりにずっと考え続け、それに対する答えが”ARM”となった」と述べた。
 ARM買収発表後、株式市場ではソフトバンクの株価が下落。多くのメディアやアナリストが疑問を呈した。
 
『なぜ、ARMなのか?』
 
 その問いに対し、孫社長は「囲碁でいえば重要な飛び石だ」と答える。
 
「囲碁に例えるならば、自分が持っている石の色のすぐ側に石を置くのはわかりやすい。自分の陣地を広げるから。今ある持っているもの、今持っているものに足し算をするならば、今ある石のすぐそばに打つというのが一番わかりやすい。でも、囲碁の勝負を見てみると、必ずしもすぐ側に打つ人が勝つわけではない。10手先、20手先、50手先のところに、『なぜあそこに、今そこにその1点に打たなきゃいけなかったのか』というのは、その囲碁の世界に命がけで勝負をしてる人であれば、お互いにわかりあえる。そういうことではないかと思う」(孫氏)。
 
 

ソフトバンクの原点

 
 今から40年前、カリフォルニア大学バークレー校に通う19歳のときの孫氏は、サイエンスマガジンの中の1枚の写真を見て、生まれて初めて見るものに「?」マークが浮かんだという。
 
『これはなんだろう?』
 
 指先に乗っかるほどの小さな破片。それは、『チップ』の拡大写真であった。ついに人類は、みずからの頭、みずからの知性を超えるものを生み出してしまった。人類よりも遥かに賢いものを人類みずからの手で作ってしまった。
 その怖さと感激と興奮によって、孫氏の両手両足の指がジーンとしびれ、涙が止まらなくなった。
 それからというもの、その写真をプラスチックのシートに挟み、リュックサックの中に入れて大学に通い、枕の下に入れて寝たという。まるで、大好きなアイドルスターの写真を大事にする少年のように。
 
 

ソフトバンクの社名の由来

 
 ソフトバンクの社名の由来は、「ソフト(Soft)」を「バンク(Bank)」するということである。孫氏の言葉を借りると、ソフトというのは、「ソフトウェア」と「データ」に相当するものであり、人間でいう脳細胞がハード、知恵に相当する部分がソフトウェア、知識に相当する部分がデータ。その知識に相当するデータを大量に瞬時に吸い寄せて分析し、自ら学習して思考するのが超知性であり、超知性の感情が「シンギュラリティ」だという。
 
「データを吸い寄せさせるためにチップが必要だ」 そのように孫氏は力強く話す。そして、「シンギュラリティに対する重要なカギは『IoT』である」とも。
 
 つまり、孫氏が考えるIoTは、データを吸い寄せる『チップ』が最も重要なカギなのである。そして、そのチップを「ARMが今から20年以内に約1兆個地球上にばらまく」と興奮して語る。
 興奮するのも無理はない。19歳のころ初めて見て感動した『チップ』に、40年経った今、”もう一度出会える”ことになったのだから。
  
 

情報革命に生涯を捧げる

 
「ARMがソフトバンクグループの中核中の中核の会社になる」
 孫社長は、断言した。これから、すべてのものがインターネットにつながる「IoT」という、人類史上最大のパラダイム・シフトが訪れるからである。その中心に存在するのは、紛れもなく、『チップ』を生み出すARMなのである。
 
 しかし、ソフトバンクはこれまで、パラダイムシフトのたびに主要事業を変えてきた。現在の主要事業はモバイル通信であるが、それ以前は1台も携帯の端末を売っていなかった。インターネットでヤフーをやっている会社であり、その前はパソコンソフトの卸問屋であった。
 非連続的に、本業がガラッと変わっている。ソフトバンクとは、いったい何屋なのか。
 
「ひと言で大きくまとめていうと、情報革命屋さん」 ―孫社長がそう答えた。
 
「情報革命というのが、19歳の私のあの涙を流したときからの、自分にとっての生まれた使命だと、生まれた理由だと思っているわけです。この情報革命のために命と情熱を捧げる、生涯を捧げるということであります」(孫氏)。
  
 一見連続性のない本業の変遷も、孫社長の中では、これから訪れるパラダイム・シフトを迎えるための着実な歩みであり、40年も前から彼の中には、ここに辿り着く道筋が連続性となって見えていたのかもしれない。
  
「すべては1枚のチップの写真から始まった。なんのためにやるのか。これから300年ぐらい、私はソフトバンクが生まれた理由、ソフトバンクがやっていく理由は、このことをやっていくということです。『情報革命で人々を幸せにする』ということです」(孫氏)。
 
 
 

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